大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成8年(ワ)4499号 判決

原告

岩岡見明

被告

箕面市・大阪府・国

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して金一〇〇〇万円及びこれに対する平成四年六月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、道路に設置されていたフェンスが壊れていたこと等が原因で道路から水路に転落し、頸髄損傷の傷害を負ったと主張して、被告らに対し、国家賠償法二条一項に基づき、損害賠償請求(内金請求)している事案である。

一  争いのない事実及び証拠(甲一、四ないし八、検甲一ないし四、弁論の全趣旨)により容易に認定できる事実

1  原告(大正九年五月七日生)は、平成四年六月一五日午後五時四三分ころ、大阪府箕面市稲四丁目三番一二号先路上(市道)において、道路(以下「本件道路」という。)から水路に転落した(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故現場の概況は、別紙交通事故現場の概況(三)現場見取図(以下「図面」という。)記載のとおりであり、本件道路は、右図面の千里川に沿って東北から南西に延びる道路である。

3  原告は、本件道路の図面〈×〉地点から三・六メートル下の水路へ転落して頸髄損傷等の傷害を負い、友紘会総合病院及びガラシア病院において入院治療を受けたが、平成五年七月八日、四肢麻痺、体幹機能障害等の後遺障害を残して症状固定と診断された。

二  争点

1  本件事故の状況及び公の営造物の設置又は管理の瑕疵の有無

(原告の主張)

(一) 原告は、本件道路を原動機付自転車(以下「原告車」という。)を押しながら東北から南西へ通行中、対向車を避けようとして左側に寄ろうとしたところバランスを崩し、本件道路の南側に設置されていたフェンス(以下「本件フェンス」という。)に原告車と共に倒れかかった(図面〈×〉地点)。

ところで、図面〈×〉地点の本件フェンスは、外枠部分が曲がった状態で、金網部分は破れて大きな穴が開いていた。さらに、本件フェンスの外枠部分と図面記載の水路の東側沿いに設置されていたガードレール(以下「本件ガードレール」という。)との間には大きな隙間があった。

このため、原告は、本件フェンスの外枠部分あるいは金網部分をつかむ等して転落を防ぐこともできず、結局、本件フェンスの外枠部分と本件ガードレールの隙間から水路に転落した(なお、原告車は、本件フェンスの金網部分の穴から水路に転落した。)。

(二) 以上によれば、本件事故は、本件フェンスの外枠部分が曲がっていたこと、その金網部分に穴が開いていたこと及び本件フェンスと本件ガードレールとの間に大きな隙間があったことが原因である。そして、本件フェンスは、主として歩行者等が水路へ転落することを防止する目的で設置されているものであるから、これが壊れていることは公の営造物の設置又は管理の暇疵に該当することは明らかである。また、本件ガードレールは、本件フェンスとの間に隙間が生じないように設置されるべきであったから、公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったといえる。

したがって、本件フェンスの設置管理者である被告大阪府及び同国並びに本件ガードレールの設置管理者である同箕面市は、原告に対し、それぞれ国家賠償法二条一項に基づく責任を負う。

(被告大阪府及び同国の主張)

本件事故は、原告が原告車の運転を誤って自ら本件フェンスに衝突したことが原因であり、原告が主張する本件フェンスの状態(外枠部分が曲がっていたこと、金網部分に穴が開いていたこと)は、右事故によって生じたものである。また、本件フェンスと本件ガードレールとの間に原告が主張するような大きな隙間はなかった。

したがって、原告の主張は失当である。

(被告箕面市の主張)

本件ガードレールと本件フェンスとの間はわずか二二センチメートルであり、決して歩行者や単車が転落するような隙間ではなかった。本件事故は、原告が自ら原告車の運転を誤ったか、あるいは、原告が対向車との接触を避けようとして起こしたものであり、原告の主張には理由がない。

2  損害(原告の主張)

原告は、前記後遺障害により、日常生活動作が全く不可能な状態であり、その損害は、慰謝料だけでも二五〇〇万円を下らないところ、内金一〇〇〇万円を請求する。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1(一)  証拠(甲一、二、検甲一ないし四、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件事故を目撃した杉生玲子(以下「杉生」という。)は、本件事故発生の約一七分後から行われた実況見分において、次のように指示説明した。

図面〈A〉において、対向車〈1〉と原告車〈ア〉がすれ違うのを見た後、図面〈B〉において、原告車が〈×〉地点の本件フェンスに衝突するのを見た。

(2) 本件事故後の本件フェンスの状態は、次のとおりであった。

本件フェンスの図面〈×〉地点は、フェンスの支柱が根本部分から「く」の字型に折れ曲がり、金網がフェンスの外枠部分から外れていた。また、支柱の根元部分より四八センチメートルから五六センチメートルにかけてタイヤ痕が認められた。

本件フェンスのその他の部分に異常はなかった。

(3) 杉生は、平成四年七月二八日に行われた実況見分において、次のように指示説明した。

原告が水路に転落する直前、原告車は、本件フェンスの金網に寄りかかるように停止していた。

原告は、原告車から落ち、本件ガードレールに乗りかかるようにしていた。

その後、少ししてから、原告は頭から水路に転落し、それに続いて原告車が水路に転落した。

(二)  証拠(甲七、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故直後に入院した友紘会総合病院の医師に対し、「バイク運転中に橋の上から川に落下した」旨説明したと推認される。

(三)  証拠(乙一、弁論の全趣旨)によれば、杉生は、平成九年九月二日、「私の前を走っていた単車が、対向車とすれ違った後、フェンスにぶつかって、運転していた人は、ガードレールを越えて用水路に転落した」等と記載した、本件事故に関する陳述書を作成したことが認められる。

2  以上の認定事実を総合すれば、原告は、原告車を運転中、運転を誤って自ら本件フェンスの図面〈×〉地点に衝突し、本件ガードレールの上から水路に転落したことが認められる(原告は、原告車を押しながら歩いていた旨主張し、甲五及び九には、これに沿う記載があるが、前記認定事実に照らし、採用できない。)。

ところで、原告は、本件フェンスは本件事故前から損傷していた旨主張し、甲九(原告の長男である岩岡明作成の陳述書)には、岩岡明は、本件事故現場付近の住民から本件フェンスは本件事故前から損傷していたと聞いた旨の記載があるが、具体的に誰から聞いたのか全く不明である上、これを裏付ける客観的証拠も存しないことに照らすと、甲九の右記載を採用することはできず、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない〔かえって、前記認定の本件事故の状況に本件フェンスの損傷状況(1(一)(2))を総合すれば、本件事故後、本件フェンスに認められた損傷は、本件事故によって生じた可能性が極めて高い。〕。

したがって、本件事故は、本件フェンス及び本件ガードレールの設置又は管理に暇疵があったことが原因であるとする原告の主張に理由はない。

二  結語

以上によれば、原告の被告らに対する請求は、その余の点について判断をするまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却する。

(裁判官 松本信弘 石原寿記 村主隆行)

交通事故現場の概況(三)現場見取図

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例